北日本新聞「たてものに会いにいく:㉙砺波郷土資料館」にナビゲーターとして紹介されました。
たてものに会いにいく(29)砺波郷土資料館
土蔵造りの重厚な建物が冬の空の下、静かにたたずんでいる。和風の外観ながら、玄関を入ると内部は一転して西洋風。風除室の天井はアカンサス(西洋葉あざみ)をモチーフにした壮大な鏝絵(こてえ)が一面に施され、見る者を圧倒する。
1909(明治42)年、旧中越銀行本店として砺波市中心部の出町地区に建てられた。概括設計は東京の建築設計技師、長岡平三。実施設計と工事総監督は砺波市太田の宮大工、藤井助之丞(すけのじょう)が担った。43年から北陸銀行出町支店、後に同砺波支店となり、区画整理のため砺波チューリップ公園に移築された。83年に資料館として開館し、砺波の民俗や地理、歴史を調査研究、紹介している。
幕末から明治時代にかけて建てられた「擬洋風建築」と呼ばれる建物の一つ。都市部の銀行はれんがや石造りを取り入れたが、地方では伝統的な土蔵造りを応用して建築された。砺波郷土資料館学芸員の東出紘明(ひろあき)さん(31)は「土蔵造りは木造家屋が多かった地方の街並みになじみやすかったのだろう」と話す。
建物は当時の銀行建築の特徴を今に伝える。「営業室」は明るさを確保するため吹き抜けの大空間とした。カウンターには12メートルのケヤキ一枚板を用い、窓口部分には大理石を埋め込んだ。和紙に模様を浮き出させ、漆や金箔(きんぱく)を施した「金唐革紙(きんからかわかみ)」が一面に張られた天井や、装飾的なあめ色の柱。豪華で堅牢(けんろう)な造りは、当時の銀行の資金力や格の高さを感じさせる。
2階の会議室の天井には中心飾りと呼ばれる円形の装飾が二つ並び、県内に名をはせた大工棟梁、5代松井角平の細やかな木彫刻が光る。天井の回り縁は希少な黒柿を用い、床には手間の掛かる寄せ木細工を施した。砺波市太田の1級建築士、大楠安紀さん(67)は「妥協せず細部を追求している。藤井助之丞が建築に注いだ思いの強さを感じる」と話す。
階段の手すりには曲がった木材を選び、カーブをそのまま生かすなど、館内の随所に木を熟知する宮大工の技術が息づく。「木を使う文化や技術の継承があるからこそ建てることができた」と大楠さん。砺波平野を流れる庄川はかつて、上流の飛騨地方や五箇山から木材を運ぶ「流送(りゅうそう)」が盛んで川辺に貯木場もあった。木材が豊かな土地柄と地元の名工、藤井らの存在があったからこそ実現できた建築といえる。
昭和初期の改修で屋根を瓦から銅板ぶきに、外壁を黒漆喰(しっくい)からタイル張りにした以外は115年前の建築時の姿をとどめる。地元の大地主や豪商が集ったかつての銀行は今、郷土の民俗・歴史資料とともに、時代の先端をゆく建築に腕を振るった名工の熱量や心意気も伝え続けている。(文・小山紀子 写真・上田友香)
<場所>
砺波市花園町(砺波チューリップ公園内)
<概括設計>
長岡平三
<実施設計>
藤井助之丞
<構造>
木造
<階数>
2階
<延べ床面積>
446平方メートル
<完成>
1909年
※1979年に移築。延べ床面積などは本館
◆ナビゲーター 大楠安紀さん◆ おおくす・やすとし 1957年生まれ、魚津市出身。新潟大工学部精密工学科卒。三協アルミニウム工業(現三協立山)に入社し、リフォーム事業などを担当。退職後の2018年より県内で木造住宅耐震改修に特化し、診断や設計、改修などを担う。22年に1級建築士資格を取得し、大楠安紀1級建築士事務所を設立。砺波市在住。