大楠安紀ブログ

ホロヴィッツ・オン・テレヴィジョン


ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻が続き、大変悲惨な状況を眼のあたりにしています。
その廃墟のなかに楽器を演奏している映像が流れて、祖国への思いに胸を打たれるとともに、その素晴らしい音楽性に感動しました。
それで、ウクライナ出身の音楽家を調べると錚々たるメンバーがいることが解りました。

ウラディミール・ホロヴィッツ

20世紀最高のピアニストと聞かれると色々なピアニストの名前が挙がるかと思いますが、真っ先に出るのはウラディミール・ホロヴィッツです。
【参考リンク】
ウラディミール・ホロヴィッツ In Wikipedia

ホロヴィッツは、グラミー賞を25回も受賞したことがある、クラシック界の超スーパースターです。
彼は、キエフ近郊の生まれでキエフ音楽院でピアノを学んだ生粋のウクライナ出身音楽家です。
ホロヴィッツの演奏技法は独特で、強靱なタッチとどんな最弱音でもホールの一番後ろでも美しく聞こえ、「悪魔的」とさえ言われるピアノの歌わせ方をしました。

私が小さい頃テレビで流れた「ホロヴィッツ・オン・テレヴィジョン」を見てそのピアノ奏法にびっくりした思い出があります。
当時の日本で教えていたピアノ奏法と全く違い、指を立てて弾く奏法(ハイフィンガー)ではなく、伸ばして弾く奏法(フラットフィンガー)でした。
あのころ、日本のピアノ教師の間ではホロヴィッツのまねはしてはいけないと言われていたように記憶しています。
しかしながら、キエフではこのような奏法の指導がされていました。ウクライナは世界最先端のピアノ教育が行われていたとも言えます。
ホロヴィッツは帝政ロシア時代に育っていますので、国としてのウクライナの意識はなかったかと思いますが、活動の場をソ連から国外に移した時点で、名前をロシア語名のGorovitzからHorowitzに改めたことで、祖国への意識はあったのではないかと思っています。
(ロシア語にはHはないので、私はロシアで無いと言う意思表示とも取れます。)

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以下、ウラディミール・ホロヴィッツの参考動画
『ショパン「英雄ポロネーズ」演奏ホロビッツ(1987ウィーン楽友協会ホール)』




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エミール・ギレリス、スヴャトスラフ・リヒテル、ゲンリフ・ネイガウス、セルゲイ・プロコフィエフ

ホロヴィッツに並び称されるエミール・ギレリススヴャトスラフ・リヒテルもウクライナ出身のピアニストです。
彼らをモスクワ音楽院で指導したゲンリフ・ネイガウスもウクライナ出身。
作曲家としても名高いセルゲイ・プロコフィエフもウクライナ生まれです。

しかしながら、プロコフィエフを初めとして多くの作曲家達は、ソ連時代には批判の対象となりました。

ネイガウスは一時期シベリアに追放されています。
リヒテルは若い頃「幻のピアニスト」と称され、西側では演奏を聴く機会がありませんでした。
その理由は、リヒテルの父はドイツ人でスターリンによりドイツのスパイの嫌疑を掛けられて処刑され、母親はスターリンによる迫害を逃れドイツへの亡命を果たしたためです。当時のソ連政府は彼の亡命を警戒したのです。

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このように、20世紀のクラシックピアノ界を席巻したウクライナ出身のピアニスト達ですが、ウクライナの人々は決して裕福な国とは言えないながら芸術に対しての歴史と深い思いがあることが、このような音楽家が出ることにつながっているように感じます。

ウクライナが輩出した偉大な多くの音楽家たち

ピアニストだけでなく他にも偉大な多くの音楽家を、ウクライナは輩出しています。
また、ウクライナ移民の子孫まで広げると作曲家のレナード・バーンスタインやノーベル文学賞を取ったボブ・ディラン、ジャズ界ではスタン・ゲッツなど、多くの音楽家がいます。

今回のロシアによるウクライナに対する軍事侵攻は、未だ持って理解に苦しむところがありますが、侵攻とそれに対する頑強な抵抗は、ウクライナが持つ崇高な芸術性や歴史的な背景があるやに感じます。

わが家の歴史学者は、歴史的に見ると今回の侵攻と抵抗がウクライナという国の存在を世界中に認めさせたと言っていますが、改めて破壊と殺し合いである戦争はすみやかに終わらせてもらいたいと願っています。


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